「AIで何か自動化して」——そう言われた。期限は決まっている。何を、とは言われていない。
社内の方針として先に降りてきたのは「いつまでに」だけで、「何を」は白紙のまま自分に渡された。こういう状態に置かれると、たいてい最初にやることは「AIで何ができるのか」を調べることになる。だが調べれば調べるほど、選択肢は増えるばかりで、自社のどの業務に当てはまるのかは逆に見えにくくなっていく。
期限だけが先に決まり、中身はこれから——この板挟みは、めずらしいことではない。
ある相談の場面
以前、ちょうどこの状態のまま相談に来た方がいた。
※複数の支援案件で共通する工程を、特定の企業が識別されない形で再構成しています。
「正直、何を自動化すればいいのか、まだわからないんです」
「期限は、もう決まっているんですか」
「はい。なので、こちらから何か出してもらえると助かります」
要件を先に聞き出そうとしても、答えはまだ本人の中にもない。そこで、聞き取りから入るのではなく、こちらで先にいくつか用意して見せる、という順番に変えることにした。
「見せる」「触らせる」「渡す」の3層
用意したのは、ゼロから作ったものではない。すでに手元にあるものを、役割ごとに分けて並べただけだ。
- 見せるもの——相手の業種に近い業務を扱う、別の現場の画面をそのまま映して見せる。導入後の姿を、言葉ではなく画面で想像してもらう
- 触らせるもの——自社内ですでに動いている仕組みを、その場で実際に触ってもらう。触った感触から「これなら」「これは違う」が出てくる
- 渡すもの——相手が自分たちだけで進められる手引き資料。持ち帰って、社内で検討を続けられるようにする
見せるだけでは実感が湧かず、触らせるだけでは持ち帰れず、渡すだけでは的が絞れない。役割の違う3つを揃えることで、どこかしらが相手の状況に引っかかる。
ヒアリング当日
当日は、質問から入らず、この3つを順に見せることから始めた。
「これは近いです」
「これはうちには合わないですね」
「あ、こっちの触ってもらったものの方が、うちの業務に近いかもしれません」
反応を受けながら、少しずつ話が具体的になっていった。その場で自動化の対象がひとつに決まったわけではない。それでも、次に何を確認すればいいかははっきりした状態で、その日を終えることができた。
今日、自社でできること
「何を自動化したいか」が決まっていないまま期限だけが先にある——その状態に置かれているなら、次の3つを自社の持ち物に当てはめて棚卸ししてみるところから始められる。
- 相手(または自分たち)にそのまま見せられるものは何か
- その場で触らせられるものは何か
- 持ち帰って渡せるものは何か
そして、もし自分が「自動化して」と依頼する側であれば、もうひとつできることがある。「まだ何を自動化すればいいか決まっていない」ということ自体を、先に相手に伝えることだ。決まっていないのに決まっているふりをして相談を始めるより、白紙であることを最初に共有したほうが、話は早く具体的になる。
「何から手をつければいいか」という入り口の整理は、以前公開した記事「中小企業のAI活用は何から始める?最初の一歩と失敗しない進め方」でも扱っています。手元の仕組みを実際に見せる・触ってもらう例としては「業務用GPTとは?ChatGPTとの違いと社内導入4ステップ」、任せ方の設計という観点では「「AIエージェント」と「スキル」は何が違う?」もあわせてご覧ください。
